「出張月間」が終わって(後編)
後半では、9月17日から2泊3日で実施したゼミ合宿について振り返ってみたい。
17日
前日まで知人の結婚式に呼ばれ、日光まで行っていたこともあり、帰宅が深夜になった。
そんなこともあり、出発は午後とし、夕方に現地入りすることとなった。
16時半ごろ、今回の合宿のベースとなる宿舎「あやべ山の家」に到着。玄関を入ると真ん中に廊下があり左手に談話室、右手に食堂、その奥が客間になっている。
ここで、前日の古屋の「栃の実拾いボランティア」に参加し、前泊していた学生と合流。
初日は夕方着になったので、合宿の予定を説明した後、近くにある「あやべ温泉」で入浴と食事。あやべ温泉の売店で翌朝の朝食用の食材(お米、梅干し、佃煮類。全て綾部産)を購入し、宿舎に戻る。
宿舎に戻った後、自由時間が始まるのかと思いきや、学生から「こないだの高校生とのワークショップの振り返りをしたい」という申し出があり、その場を設定。
主な意見としては次の通り。
・目新しい意見はなかった。予測できる答えだけ。
・高校生たちは地元のことをよく知らないことがわかった。
・自分たちの学びとしては多くなかった。
・高校生たちに対して「将来住みたいか」という問いを発したところ「NO」が多かった。それに対して、職員の人は「仕方ない」という感じだった。
・「進学し、卒業後戻りたいか」という問いに対しても「戻りたい」という意見は少なかった。人口減少、高齢化が進む地域で「地域が変わった」ということが見えない絶望感があるのかも。
・「住んでよかった」と思える強みがない。
・隣の市と比べて「××がない」という意見が多く、高校生たちにとっては隣の市の後塵を拝している、と見えるのだろう。
・外との交流があまりない。
・「進学してもらいたくない」と思っているような。
かなり厳しい意見である。
このことについて学生と、それから同行してくださっている研究者の方々とも共有しながら、その意味や背景を探った。
次のテーマは「では、(元々の目的であった)次期計画にどう活かすか?」。
(1)行政組織の意識変革
・SNSへの抵抗感。もっとポジティブに活用できるようにすれば。
(2)「挑戦できない空気感」の打破
・移住者は全国からこの場所の魅力に惹きつけられてやってくる。
・高齢化の進む農山村部の高齢者たちは、移住者を呼び込むための工夫をしたり、特産品づくりに精を出したりとチャレンジしている。
・地元企業もユニークで挑戦している。
・こうした動きを市内の人は気づかない。
・他者の目から見られることや、アクションを起こす人が必要。
・でも行政組織が後ろ向きだと地域の人たちも後ろ向きになってしまうのではないか。
・若者の目線、農山村部の人の目線、職員の目線それぞれが同じ夢を見ることができるように。
といった意見が出た。
夜遅くまで話し合ったが、なかなか突っ込んだ議論ができ、頭が活性化した。
翌日からのフィールドワークが楽しみである。
18日
昨日買ったお米(綾部産新米!)を一升半(!)炊き、朝からおにぎりづくり。朝食とフィールドワークで山に行く人たちのための昼食用である。
2回生は、ミッションである集落紹介冊子の情報収拾のため水源の里・古屋へ。3回生は自らのプロジェクトの情報収拾のためそれぞれのテーマに合った場所へ出かけていく。
問題は宿舎からのアクセス。古屋へは同行している研究者の方に車で送っていただくことができた。またバスが出ているところへはバスに乗ってもらい、それもないところへはレンタカーを昨日借りていたので、それで送り届ける。
1名の学生を送り届けた後、古屋のグループへ合流する。ちょうど2回生が滝から集落まであるいいていたところだった。疲れているかと思いきや、案外楽しそうでホッとする。
古屋公民館に到着。おばあちゃんたちが待ってくれていたので挨拶。これから山に行ってくることを伝える。おりた後にはお話を伺う予定だ。
ここから古屋の最大の魅力といっても良い山へ入る。スズメバチやマムシが出ている、という情報を聞いていたので、山行には細心の注意を払う。
集落から林道を歩く。途中、ヘビが道を這っていたり、スズメバチが飛んでいるところを注意深くぬけながら奥へと入っていく。地上に置かず、祠の上に掲げるという珍しい石仏やかつてここが田畑だった場所であることがわかる石垣、養蜂のためのミツバチの巣箱などを見ながら通り過ぎると、山道だ。ここからは道が狭く、滑りやすいところも多い。学生は運動靴を履いているだけに余計に気を配る。登るのは「白石原」と呼ばれる場所。樹齢1000年と言われる大栃の木がある。栃の木は水や養分の多いところに育つというが、古屋の森そのものが水をいっぱい含んでいるようだ。学生たちは「マイナスイオン」といっているが、川に、そして山の地中に、たっぷりの水を含んでいることがわかる。
白石原の斜面を登り、鹿よけネットで囲われた一番上に位置するのが「モーモー水」である。山の伏流水がここで湧き出しており、川の源流をなしている。ここの水は飲めるらしく、「モーモーさん、お水をいただきます」といって飲まないとお腹を壊す、という言い伝えがあるので、みんなそれをいってから水を飲んでいた。冷たくて清らかな水だ。
ここで休憩。朝作ったおにぎりを食べたり、写真を撮ったり、タバコを吸う人はタバコをふかしたり・・・それにしても山でタバコを吸う人はなぜこんなに美味しそうな表情をするのだろうといつも思う。
13時半を回ったので山を降りる。下りでは学生たちが斜面で滑らないように注意を払いながら歩く。およそ40分ほどかけて公民館にたどり着いた。途中、何個か栃の実を拾うことができた。
公民館で栃餅ぜんざいをいただきながら、おばあちゃんたちからお話を伺う。
ただ、他の場所に調査に出ている3回生の動向が気になる。携帯の電波が圏外なので状況がわからないし、連絡が来ているかもしれない。そこで、山を降り、府道のあたりまで出てくると、着信やメッセージの受信がいっぱい。早速連絡を取ると、宿舎にいるという。うち一人は連絡がつかずに再び市街地に行ったらしい。
そこで、宿舎にいるメンバーを車に乗せ古屋へ向かい、2回生、3回生交えてお話を伺うことにした。
研究者の方から栃の実の皮むきに使う道具についてや、昔の生活についての質問などをしていく。子供の頃の生活に質問が及ぶと、おばあちゃんたちの表情が生き生きとしてきた。
話が弾んできて、学生たちからの質問を促すと、手を挙げる学生が出てきた。学生たちは家の妻にある家紋が、着物はもちろん、ふとんにも紋が染め抜かれていたことに興味を持ったらしい。どんなことであれ、こうした反応は嬉しいものである。
気がつけば16時を回っていたので、そろそろ失礼することとする。
とはいうものの、ドライバーを除く9名を2台の車で一度には運べない。そこで、ピストン輸送にし、私は宿舎に学生を送り届けた後、学生を乗せるためもう一度古屋公民館に戻ったのだが、部屋では学生がビールとおつまみをいただき、おばあちゃんたちと話に興じていた。
全員が宿舎に戻るともう18時。当初予定していた自炊は諦め、外で食事にすることとする。前日から入っていた学生が、その時訪れたかしわ(鶏肉)料理のお店を勧めてくれたので行ってみることにする。二王公園の中にある建物の中でそのお店は営業していた。事前にチラシを見せてもらっていて、鶏肉を販売していることは把握していたのだが、料理は鶏肉を使ったおばんざいと鶏肉BBQがメイン。側溝に使うコンクリートにコンロを置き、側溝の上に網や鉄板を置いてBBQを食べさせるというしつらえ。床はコンクリ打ちっ放しで殺風景な内装だが、中は地元の常連客と思しき人たちで賑やかだ。店に入ると、前日に訪れた学生はすでに顔なじみになっており、初めての、しかも地元の常連客だけの店なのにも関わらずすっかり打ち解ける。
大人数になったのでBBQにしてほしいとお店の人から頼まれたのでそうすることにする。前日来た学生はおばんざいの定食(500円!)を勧めてくれたので、それも試したみたいが致し方あるまい。
ほどなく、鶏肉が運ばれてくる。正肉ばかりでなく内臓も全て混ざったものがバットに入っている。ここは「上林地鶏」の産地。鶏肉屋が出す店ということもあり、新鮮さに自信のある証左だろう。これに野菜とご飯(おかわり自由、瓶や小皿に入って置かれている漬物類は食べ放題)がついて1000円はお値打ち。
いただいているうちに、お店のお客さんであるおっちゃんたちと馴染んでくる。中にはそのテーブルに入り、話し込んでいる学生もいる。前日に行った学生が「ここのお店よかった!」と勧めてくれたことがご縁で、地域の人たちとすっかり打ち解けることができたし、この地域の人たちの生活の一部でも垣間見ることができたであろう。
だが、気がつくと21時を回っている。入浴の時間がなくなってしまうということで、名残惜しみながら店を後にした。
入浴後、宿舎に戻ると23時近くになっていた。さすがに今日は疲れたと思うので、1日のフィードバックを行い、自由時間とした。
19日
レンタカーを一旦返却しなければならないので、朝食のおにぎりだけ(この日は一升)作って、駅前まで車を返しに出かける。
あやバスで戻ると、大町バスターミナルに3回生の3人がバスを待っていた。聞くと、前日の調査で聴けなかったことを今日聴くという約束をしたいるのだという。
学生たちと別れ、宿舎に戻ろうとしたのだが、あいにくバスターミナルから先のバスがない。ちょうど、市の集落支援員の方が、小屋に行くところであったので、道すがらにある山の家まで乗せてもらう。田舎では厚意に甘えることが大切だ。
宿舎に戻り、荷物をまとめ、チェックアウトの準備。それまでに、2回生には前日の調査を踏まえ、その内容を検討してもらう。
時間が来たのでバス停へ。
あやバスで40分程度揺られ、駅前へ。このあと1時間ほど昼食のため、自由時間とし、学生たちを「放牧」した。
駅で今後の予定等を整理していると、府の大学政策を担当している課の前の担当者の方とばったり。現在の取り組みや以前のこと、今後のことなどについてついつい30分以上話し込んでしまった。
13時過ぎ、駅からタクシーに分乗して綾部市里山交流・研修センター(綾むすび館)に出かける。こちらでは、今年度この施設でうちのゼミと、府立農業大学校、そしてこの施設の指定管理者である里山ねっと・あやべの三者の協働で進めている「0農」の会議。「0農」とは、この施設にある、かつての土砂崩れで荒地になってしまった土地を「土作り」から始め、農地にし、そこで農を通じたコミュニケーションや学び合いの場、収穫した作物の活用などを進めていこうというプロジェクトである。
1時半頃到着。農業大学校の先生と学生さん4人、そしてうちが教員と学生10人、そして里山ねっと・あやべの担当のスタッフ1名が参加して、現在の進捗や看板づくり等今後進めていくことについて話し合った。
その後、畑に出て、作物の剪定や、秋収穫の作物(サツマイモ)の具合の確認等を行い、合宿の全行程を終了した。
ここで3日間の合宿について振り返っておこう。
まずは、先月の5大学のインターゼミ、11日の高校生との意見交換会、そして今回という大変ハードな合宿、フィールドワークを通して、確実に成長した。そしてゼミ間の結束も強まった。
次に、教員がいちいち指示をしなくても、自らの判断で現地で話を聞いたり、行動したりする中で、地域の人たちと仲良くなったり、思わぬ資料をいただけたり、またフィールドで得られた成果をもとに考察ができるようになったことがある。
そして現場では、以前、「フィールドワーク教育」について聞いたシンポジウムの内容と感想について記事を書いたことがあるが、あらかじめ予定されていた「シナリオ通り」にはいかない、「アドリブ力」、すなわち「フィールドワーク力」がついたことを実感できた。例えば、合宿に先行して地域に入っていた学生は、バス停から現地、現地から宿舎までの自動車での送り迎えを知人にお願いしただけで、あとは(私が当日まで時間が取れなかったこともあるが)全て学生の自主性に委ねた。結果、自分で夕食をとる店を見つけ、自ら飛び込み、そこでお客さんとしてきていた地域住民の方々と親しくなったり、自分でバスに乗って調査に出かけたりといった行動ができた。また別の学生は、前回の高校生との意見交換会で考えたことと訪問先で聞いた話とを踏まえ、組織の構造と意思決定の関係にまで考察を深めることができたことなどがある。
今回の合宿では、まさにフィールドワークの醍醐味を味わってもらえたことが最大の成果だと思う。
ただ、「自ら動ける」学生は良いが、方向性について迷っている学生にとっては若干得るものは少なかったかもしれない。こうした学生に対して、いかに的確なアドバイスやケアができるかが今後の課題である。
今後、2回生は集落紹介冊子の内容の検討、3回生は各々のプロジェクトのテーマを掘り下げ、活動に移していくことになる。また12月には「京都から発信する政策研究交流大会」での発表も検討している。
これから忙しくなることだろうが、この夏の成長を見る限り、大いに期待できそうだ。