誠信堂徒然日記

まちづくり、地域のこと、旅行記、教育や社会問題等徒然と。

2023年 元日新聞くらべ読み

今年もやります。「元日新聞くらべ読み」。

 

あやべ市民新聞

購読を初めて2年目になる。新聞を取り巻く環境は厳しいが、いつも地域に根ざした記事を提供してくれる同紙。

面白い(というか「特ダネ」かも)のが「かつて山家(やまが)に「芝居小屋」があった」という記事。江戸時代から同地域には芝居小屋があったという歴史を、地元の歴史の会が発掘を進めているらしい。現在は過疎化が進むこの地域になぜ芝居小屋があったのかというと、かつてここは街道筋で、明治末期まではここで渡し舟を使って由良川を渡る必要があったらしいが、大水が出ると旅人は逗留を強いられたとのこと。そのために芝居小屋が置かれたのではないかという見立て。

私の専門は(実は)地域文化政策だが、人口減少や高齢化により、文化を享受できる環境が地域から失われてきており、そのことから、人々の創造性涵養においても地域間格差がもたらされていると考えているが、こうした動きが、ささやかであってもそれを解決する一助になればと思う。

 

京都新聞

今春、いよいよ文化庁が京都にやってくる。それにあわせ、知事、市長、文化庁長官の鼎談が見開きで掲載。あまり深い内容ではないが。また、人口流出や財政難に悩む京都市を含め、府、京都市滋賀県政23年の展望はタイムリー。

あと、社説「この地に足をつけて、歩もう」は、国の「地方創生」政策の負の側面を総括しながら、ローカリズムの価値を説く。文化庁の京都移転、統一地方選も今春。京滋は「行政の年」になるのかも。

経済では、永守重信日本電産CEOのインタビュー。前年、後継者問題等で何かと話題を振り撒いた同氏だが、ここで述べられているような見通しはどう出るか。

目を引いたのは、「下京の会津小鉄会元本部跡地を任天堂創業家が取得」という記事。芸術家らの創作拠点などとして整備するらしい。前年、旧本社をホテルに改修するというニュースがあったが、ここはその創業の地にも近い。最近、旧五条楽園にある建物等がゲストハウスや銭湯などに改修され、注目されているが、この地は併せて「市民活動・まちづくりの拠点」でもある。地域にどんな変化をもたらすか。

 

毎日新聞

年始の特集が「「平和国家」はどこへ」、そして社説が「危機化の民主主義 再生へ市民の力を集めたい」。昨年起こったロシアのウクライナ侵攻、「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平中国国家主席と「台湾有事」への脅威・・・歴史を紐解けばそういう考え方や行動が出てくることは驚くことではないが、現代的な価値観から見れば、「専制主義」の台頭が世界を覆う不安は増すばかり。そうした中で、日本政府も安全保障政策の大転換へと舵を切った。

社説では、そうした民主主義の危機に通底しているのは人々の不満と不安であると論じる。

その解決に「地方の取り組み」に期待しているのは興味深い。地方自治は、住民に最も近い民主主義である。社説では、国内外の事例や、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』を引きながら、地方自治の重要性を説く。統一地方選を控えて、という論調ではあるが、住民一人ひとりが「地域の担い手」として政治や地域の運営に関わるなかで、民主主義を育てていくことが、実は「専制主義」に対抗する手段になるのかもしれない。

 

朝日新聞

年始の特集は「ともしび わたしのよりどころ」。ノーベル賞作家、スベトラーナ・アレクシエービッチさんのインタビュー記事。1、2面のインタビューと社説とをあわせ、人間がなお戦争を引き起こし、そのことで人間性を揺るがす愚かしさをあぶり出している。そしてその解決のための構想の必要性を論じている。

面白かったのは11面の「「覚悟」の時代に」という1面全てを使ったオピニオン記事。方や「若者代表」として国際NGOアース・ガーディアンズ・ジャパン代表の川崎レナさん、方や「高齢者代表」の宗教学者山折哲雄先生。「大人もこともも同じチームにいる」「議論には心理的な安全性が必要だと思う」といった、川崎さんの若い感性は”刺さる”。一方、山折先生の意見は、「命」に関する長い時間と深い思考によって”練られた”言葉が目をひく。

地方欄(京都)の「ぐるっと「食」見聞録」「関西のナゾ 京都タワー」は知っていることも知らなかったことも含め、純粋に楽しめた。

 

日本経済新聞

こちらも、新春特集のテーマは「分断」。だが、「グローバリゼーション」について全面的に焦点を当てているのが前出の紙面と異なる。確かに、ロシアのウクライナ侵攻、中国の大国化と覇権主義が世界に与えた影響は大きい。1面トップの見出しが「グローバル化止まらない」となっているが、好むこの混ざるに関わらず、私たちはグローバル社会の中におり、その中で翻弄もされ、かつチャンスも手にする。それは国際社会であれ、都市であれ地方であれ同じである。

面白かったのが「打ち破れ2023」。今は「不確実性の時代」と言われるが、そんな中、過去のしがらみや常識を捨てて未踏の地を切り開く各分野のキーパーソンに焦点を当てた記事。政治であれビジネスであれ学術であれ、社会を動かすのは「人」である。そして彼ら/彼女らは、直面する課題に挑み、道を切り開いているのである。

 

産經新聞

年初のテーマは「民主主義の形」。ロシアや中国をはじめとする「権威主義」の国が台頭する一方、民主主義の国や地域は後退し、今や権威主義と民主主義の国とがほぼ拮抗している。産経の主張では、こうしたさまざまな問題に立ち向かうのは「国家」が主語である。

面白かったのは、岸田首相と歴史学者磯田道史さんとの新春対談。首相が自らが成し遂げた政策について「自画自賛」する一方で、磯田氏は、歴史と共に戦争の仕方が変わるなか、防衛の形が変わる、変わらざるを得ないことは認めた上で、今やコロナ禍のようなウイルスや気候変動など世界が「手を携えていかなければならない」問題だらけの現在、ロシアのウクライナ侵攻を引きながら、戦争の愚を案じている。

それは、後半の徳川家康の人物評にもつながる。磯田氏曰く、家康は「多様性を認めたリーダー」だという。家康は無理をしない、「分配と棲み分け」、多様な考えを認める政治を行い、天下泰平の徳川時代が続くことになったという指摘は興味深い。

 

讀賣新聞

1面には特段新春の特集記事はないが、新春名物の「大きな社説」は健在。今年1回目の題は「平和な世界構築の先頭に立て 防衛、外交、道義の力を高めよう」である。産経同様、問題に立ち向かう主語は「国家」であるのは産経と同じ。

岸田首相のインタビュー記事と同じ面にあり、目立たない記事だが「地域おこし協力隊 経験者活用 「協力隊」ネットワーク化へ」という記事に目が行った。2026年に現役隊員を1万人とする目標に向け、隊員の活動支援や相互の連携強化、また協力隊のOB・OGのネットワーク化によって、現役隊員との情報交換やノウハウの共有を図っていくという内容。

京都欄には、文化庁の京都移転に合わせ、妙心寺塔頭・退蔵院のお抱え絵師となった村林由貴さんの記事の全編。プロジェクトに選ばれ、住み込みで修行をしながら向き合った過程の記録。後編が楽しみ。

 

ロシアのウクライナ侵攻、「台湾有事」への恐怖、続く円安、待ったなしの気候変動対策・・・といった情勢を踏まえ、いずれも「分断を乗り越える」「不確実性の社会を生きる」といった論調が目立ったが、その主語や論調はやはり微妙に異なる。

一方、今年の京都の最大のトピックは文化庁の京都移転であろう。それに関連した記事も数多く目にした。