誠信堂徒然日記

まちづくり、地域のこと、旅行記、教育や社会問題等徒然と。

「関係人口」

この1週間の出来事

 

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午前中から綾部市古屋へ。古屋は綾部の「水源の里」に指定されている集落の1つ。わずか人口4名の集落だが、この集落を応援する「古屋でがんばろう会」のメンバーが頻繁に訪れ、集落支援に一役買っている。

今回は、いよいよ実りだした栃の実を受けるネット張りの作業。

川から破れて落ちているネットを引き上げ、それを繕う。山奥でさながら浜辺で漁網を編むかのような光景が広がる。

昼食をとり、「古屋でがんばろう会」の役員会。9月から始まる栃の実拾いボランティアのスタッフ側の体制決めと注意事項の確認。その後残りの作業をして、3時ごろ完了。

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古屋でがんばろう会」は、春は鹿よけネット張りや集落整備、秋は栃の実拾いや灰作り(栃の実を茹で、アクを抜くのに使う)のボランティア、また都市農村交流のイベントなども実施している。集落の人口は4人だが、そこに関わる「関係人口」は、その数倍になる。

 

終了後、ゼミ生が実行委員会のメンバーに名を連ねている京北の「さとまちフェスティバル」へ。「さとまちフェスティバル」は大学コンソーシアム京都の「学まちコラボ」採択団体であり、今年で4回目。地元出身の学生や社会人と地元高校生とで実行委員会を組織し、地域の人たちと交流する機会としての夏まつりを実施するというものである。

古屋を出るのが遅くなり、到着が5時ごろになってしまったが、地域の子どもたちが遊びに来ており、地元の鮎焼きや流しそうめんといった飲食の提供や絞り染めのワークショップなど夕涼み的な良い雰囲気。

場所は「恋咲楽」というかつて空き家であった建物を改修した地域の拠点。建物の中では子どもたちがゲームをするなど、思い思いの形で楽しんでいる。

恋咲楽の代表の方に話を聞く。聞くと、「さとまちフェスティバル」は、いたずらに規模や来場者数を追うことなく、「来る人も自分たちも楽しめ、持続できる」運営をしているという。確かに見ると、スタッフがあくせくすることなく、共に楽しんでいることがうかがえる。また、恋咲楽は「(京北の)青少年活動センター」のような位置付け。あくまでも若い子たちが自主的に運営することにしているという。都市部では若い人の「居場所」があるが、農山村部ではいわゆる「サードプレース」がない。農山村こそこうした場所がいるのかもしれない。

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この日から30日まで、5大学の合同ゼミ合宿(インターゼミ)。毎年地域は大学所在地のある場所持ち回りで実施しており、第3回目となる今年は綾部・福知山が舞台。福知山公立大学京都産業大学が幹事校である。

5月ごろから準備を進めてきていよいよ本番である。だが、あいにくの天気。

私は、合宿の前に「あやべ水源の里連絡協議会」の総会があり、そこでの講演を依頼されていたので、まずそちらに伺う。講演のテーマは「水源の里AtoZの取り組みから」。昨年度から実施している綾部市、本学、龍谷大学による3年度間プロジェクトである「水源の里16集落のAtoZを作る」の昨年度の取り組みから見えたことについて講演した。

学生たちが世間一般には「過疎地」と括られてしまう「水源の里」の集落に入り、そこでインタビューをしたり、地域を観察したり、はたまた地域の様々なイベントやボランティアに参加する中で見えたことや学生の学びについて紹介した。また彼ら学生はここでの学びから地域への関心が高まり、「関係人口」として地域を応援する存在になることも付け加えた。

 

講演が終わり合宿会場である綾部市里山交流研修センターへ。ここは、昨年10月からは京都産業大学の交流拠点「綾・むすび館」にも位置付けられており、本学の学生にとっても馴染みの施設。

すでに、5大学の学生の顔合わせが始まっており、続いて懇親会のBBQ、そして学生たちによる各大学紹介によって、早くも打ち解けた。

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29日からはいよいよ調査。午前中は綾部市福知山市それぞれについてゲストからのお話、そして昼からは、綾部調査組、福知山調査組それぞれ3グループを作り、フィールドワークに出かける。私は綾部調査組を担当。学生グループが考えたテーマに沿って、市役所や水源の里の集落で、あらかじめ市役所の方からご紹介をいただいていた方々へのインタビューのアテンドを行なった。

インタビューは、Iターン者、Uターン者、地元の方にインタビュー。移住の動機、Uターンの動機、地域の事情、そして女性の移住者の方からは子育て、女性の視点からの地域の課題など幅広いお話を伺うことができた。

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調査結果を持ち帰り、各グループでプレゼンに向けた準備を、「ほぼ徹夜で」行う。

最終日の30日には綾部、福知山それぞれを調査した6つのグループから調査結果と政策提案のプレゼンテーション。担当教員で協議し、最優秀賞、優秀賞、特別賞を決め、表彰した。

終了後、学生たちはすっかり打ち解け、早くも友人、同志の関係に。別れを惜しみながら、合宿は終了した。

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こうした1週間であったが、キーワードはタイトルにも書いた「関係人口」である。

2016年ごろから様々な著書で知られるようになった「関係人口」であるが、今では政府もこの言葉を用いるようになっている。学生たちも今後、その地域の「関係人口」になることが多いに期待できる。

 

だが、この言葉、ちょっと使い方に注意が必要である。

総務省のウェブサイトを見るとその地域に居住地を移す「定住人口」と観光等でその地域を訪れる「関係人口」の間に位置するもの、と定義されているが、その概念は広い。例えば「頻繁に行き来する人」「その土地にルーツがある人」「仕事やかつての居住等で何らかの関係がある人」とされているが、他にも「ふるさと納税で応援する人」や「二地域居住者」も含めることが多い。それゆえ捉え方は様々になってしまう。

合宿でも「関係人口」という言葉の使い方には注意が必要だね、ということが教員同士でも話題になった。

定住はハードルが高いが、頻繁に、かつ愛着を持ち、そして「当事者的に」地域に関わってくれる存在、として何となく「現在の地方の問題を解決する美しい言葉」のように捉えられてしまいがちである。

だが、「美しい」ゆえに、この言葉を使うことによって「すべて『関係人口』で問題解決」といった「思考停止」に陥ってしまう可能性があることを我々研究者は常に注意深く見ていかなければならないと思う(かつてまちづくりの世界で「コーディネーターが必要だね」と言われたのと同じか?)。

 

「関係人口」について、改めて定義したり、その意義や課題について整理し、より良い処方箋を書くことが私たちに求められているのではないか、そんなことを考えた1週間である。