誠信堂徒然日記

まちづくり、地域のこと、旅行記、教育や社会問題等徒然と。

別府混浴温泉世界フィールドノート(前編)

9月3日木曜日朝6時55分、さんふらわあこばるとで別府観光港に到着。待合室には混浴温泉世界2009に出店したマイケル・リンの作品が出迎えてくれる。

バスで別府市街地へ。別府到着時から雨模様であったが、別府駅に到着する頃には傘が要らない程度に雨が上がる。

駅周辺をぶらぶら。趣き深い建物が至る所にあり、狭い路地を通るのも楽しい。駅前にあるクラシカルな「駅前高等温泉」の建物が気になる。入浴もできそうなのだが、ちょっと我慢。

その後、駅構内の喫茶店で朝食。混浴温泉世界総合インフォメーションセンターでマップ等情報収集。9時過ぎに街に繰り出すこととする。

駅から海岸の方向へ数百メートル歩いたあたりの竹瓦温泉へ。周辺は「夜のまち」。まだ前夜の残り香も漂うようである。

竹瓦温泉もまた重厚で古風な建物。入浴料はなんと200円。タオルと石けんを買っても500円でおつりがくる。なお浴室の反対側は砂蒸し風呂である。

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浴室に入る。脱衣場から浴場までは仕切りがなく階段を下りるだけ。脱衣場はよく見れば外から丸見えである。

浴場は中央に湯船。周辺が洗い場になっているが、シャワーなどはなく、皆湯船のお湯を洗面器ですくい、かけ湯をしたり、体を洗ったりしている。

お湯は43度。やや塩気のあるいい湯であった。

湯上がり後は建物の真ん中にあるスペースでゆっくりできる。ここで汗が引くのを待つのも良い。

その後、トキハデパートへ。こちらでは混浴温泉世界の1企画「わくわく混浴デパートメント」が開催されている。「デパート」なのだが、ショッピングモールのように半分以上のフロアがテナント。特に地方では百貨店という業態が成り立たないのだろうか。

百貨店の7階のレストランフロアで「わくわく」は開催されている。中央にある案内ブースには人がいるが、何となく暇そう。

レストランフロアであるが、「わくわく」のスペースの方が多いような印象。興味を引いたのは、飲食店の空きテナントを使ったスペース。海の見える大きな窓を活かしたり、厨房スペースに展示をしたりと趣向が面白い。あと、別府の高校で行われている美術教育をそのまま再現したスペース。これは、アートのみならず、あらゆる対話を中心とした授業に応用できるのではないかと考えた。

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トキハアパートを後にし、ふたたびまちへ。駅に戻り、総合インフォメーションセンターで予約していたパスポートを手に入れる。まち歩きマップを見ながらまちをうろうろ。最初に入ったのは、「混浴温泉世界」の関連事業である「BEPPU PROJECT 2015」の出展作品があるplatform04 BEPPU SELECTである。ここでは別府観光港で展示のあったマイケル・リンの作品であるふすま絵が展示されている。

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またこの建物の並びにあるplatform05ではラニ・マエストロの作品展示。いずれも混浴温泉世界2009出展作品である。いずれの建物も古い建物のリノベーション。05の方は天井も低く、手を入れたのは最小限のような感じだが、自宅のリノベーションの参考になるのではという感想を持った。

再びまちに出て、うろつく。別府は路地のまちだ。通りと通りの間に路地があり、狭い道の先に向こう側の通りが見渡せたり、建物が幾重にも重なり合って薄暗い道もある。そして、なぜか猫がうろついている。

続いていったのがアガット・ドゥ・バイアンクールの作品。といっても古い建物の壁面を白く塗り、そこから地面にかけて水色の線を引いただけのもの。建物の隣は空き地、奥にはおそらく現在建てることのできない3階建ての木造家屋。「それだけ」の作品なのだが、周りの風景と合わせ、気になる作品である。

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さらに南に進むとアイリ・ザンクの作品へ。この間は飲屋街で、昼間は人通りもまばらである。アイリ・ザンクの作品はさらに細い路地の奥。雑居ビルの壁面をキャンバスに見立て、小枝やペットボトルの破片などに色を塗り、それを使って風景のようなものを描き出している。何となく水墨画を意識したようにも見えるし、そうでないようにも思えるし…

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ところで、昼間はこのように「健全」に楽しめるが、全くの「夜のまち」にこの作品はどのように映るのだろうか。あらゆる角度から眺めながらそんなことを考えた。

まちには、作品ではないのだが、古い器を壁に埋め込んでいる店だったり、古く朽ちかけた建物の壁だったり、作品ではないものも、何やら「作品」のように見えてきて、その境界がだんだん曖昧になってくる。

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路地を抜ける。正直「ほっと」する気持ちも半分。そこには国本泰英の作品。ホテルニューツルタの北側の壁面に描かれた人の絵。

大分名物「とり天」定食の昼食を済ませ、再び駅方面に向かって歩く。そこで目についたのが白地に黒いタイルで「草本商店」と書かれた古い建物。気になる。入り口を見ると「platform03」とある。そしてBEPPU PROJECTの作品展示スペースになっていた。狭い階段を上って2階に上ると板の間、畳の間、「WC」と書かれた扉。あけてみるとやはりトイレ。だが「昔のまま」ではなく、洋式に直していた。さらに3階に上がると人が。混浴温泉世界のボランティアをしている学生さんだそう。関西の大学に行っているが、夏休み中、地元の九州でこのボランティアをしているとのこと。この建物につながっている建物の屋上から下に下りる階段には草本利枝の写真。また、この建物は元砂糖や米などを扱っていた問屋で、先に見た白い階段状のオブジェ(マテー・アンドラス・ヴォグリンキク作品)は、かつて商いをしていた頃に扱っていた砂糖から連想し、角砂糖で作られている混浴温泉世界のイメージにもなっていると教えてくれた。この草本商店の娘さんだいうことはこの後参加するアートゲートクルーズで知ることになる。

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今度は駅を起点に線路の高架下にのびるべっぷ駅市場を通る。「別府市民の台所」と行ったイメージ。野菜、魚、肉、総菜、菓子…さらに先に行くとペットショップ(ここでも猫がメイン!)があったりと、生活を垣間みることができる。やはりこの季節目立つのは大分名物のかぼすである。

べっぷ駅市場が途切れたあたりに出ると、かつてはさらに高架下に店があった形跡がうかがえる。また、高架の脇にもいくつか店がある。そこも途切れたところにマップにも載っている別府タオルにフジヨシ醤油。別府タオルは昭和を思わせる漫画がプリントされたタオルや、織柄で別府を表したタオル等。フジヨシ醤油は地元の醤油屋さんの風情。購入したかったが、荷物になるので断念。

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その先には、末吉温泉。大平由香理作品である壁画を見たかったが、すでに開店時刻であったため断念。明日にしよう。

さらに、海側に向かって歩く。古い家、といってもよく手入れをされているわけではない、所々朽ちた家が目立つ。だがこれも「アート」のようで面白い。思わず写真に撮ってしまう。また、「温泉」が至る所にある。別府で目立つのは昼間でも洗面器を抱えた高齢者の方を町中で目にすることである。これは面白い文化だ。

商店街の方までおりてきた。「楠銀天街」というアーケードを歩く。多くの地方の商店街がそうであるように、人影はまばら。シャッターを閉めた店が目立つ。この中にある「中浜地蔵尊」境内には、別府の華やかかりし頃の写真が展示されている。商店街の中を人がひしめき合っていた時代の写真もあり興味深い。さらに東に進むと別府銀座商店街につながっている。この中には大分県の特産品のセレクトショップである「Oita Made Shop」や、別府の伝統産業である竹細工の工房がある。竹細工の工房を覗くと、一人の職人さんが作業をしていた。覗きながら雑談をしていると「このイベント(混浴温泉世界)で、個々がダンスのステージになった。また逆に商店街の通りをステージにこちら(工房)を客席にして見てもらったこともあった」とその時のアルバムを見せてくれた。そこに写っていたのは、京都でNPOを立ち上げた時に参加してくれた当初メンバーの方。今はダンサーとして活躍しているようだ。思わぬところでの「再会」にびっくり。また、竹細工の豊富さにも興味津々。大分の美術館にも展示されているとのことで足を運びたかったが、今回はかなわなかった。

ホテルのチェックインの時刻になったので、ホテルに荷物を運び、4時のアートゲートクルーズまで小休止。

16時10分前、別府駅の総合インフォメーションセンターへ。こちらで受付を済ませ、出発。まち歩きをしながら、その途中にある場所場所で展示されている作品を見るという趣旨の企画。「作品は写真を撮ったりSNSにアップしても良いが、場所は明かさないように」との参加にあたっての注意があったので、公開用には場所は明らかにしない。

当日配られたプリントに書かれた「旅のキーワード」をもとに、別府のまちについて、アートを通じて考えてみよう(写真で主な作品のみ公開)。

点在する温泉銭湯

外湯

銭湯2階の公民館

爆撃を受けていない街

最初の地下街

ネオン街

大陸からの引揚者

時代の残り香

空き地

ネコ

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別府のまちを歩くと、あちこちで「温泉」を目にする。さすが湯の町だ。駅前にも「高等温泉」という銭湯がある。そういえば、アート作品もいくつか「○○温泉」を会場にしていた。

町中の至る所にある「温泉」。よく見ると2階は「公民館」になっている。ひと風呂浴びて、そこに人が集う。このまちでは、コミュニティの核としての「温泉銭湯」なのだろう。それでも、かつて 「1階が温泉銭湯、2階が公民館」であったところでも温泉が閉店となり、公民館だけが残っている場所もあり、そこでも作品展示があった。

別府は太平洋戦争中、空襲を受けなかった。それゆえ、古い建物が多く残っているし、戦後進駐軍が「キャンプ・チッカマウガ」構えた。そしてその建物の間には細い路地がたくさんある。各時代の建物が残り、それが時代の残り香を伝えている。古くて趣のある建物もあれば、朽ち果ててそのままの建物もある。また、路地の脇が突然空き地になっていている所も随所に目立つ。空き家、あるいは商売を辞めているであろう店も目立つ。そんな中、とあるビルには地下街があり、アートゲートクルーズでも案内してくれた。なんと半世紀前にはバーがあったらしい。地下街の階段を下りると「上海」と書かれた「かつての店」も見ることができた。そんな地下街も今や時代が止まったまま、作品の展示会場になっていた。

ガイドさん曰く、別府では建物の入れ替わりのサイクルが早いのだという。案内してくれた「梅園小路」の入口も空き地。かつて病院があったとのことである。

古くから地下街でバーが開かれていた等、温泉歓楽街として現在の中心市街地はにぎわいを見せていた。当時ほどのにぎわいはないと思うが、今でもきらびやかな歓楽街だ。かつて華やかなりし頃、どれほどのネオンきらめくまちだったのであろうか。

初めて知ったのは別府が「大陸からの引揚者」のまちであったことである。作品展示があった建物のある通りもかつて引揚者が多く働いていたまちであったらしい。そういえば、この次の日、引揚者ゆかりの建物に誰も住んでおらず、取り壊しもできないまま放置されているのを目にした。

こんな、路地が入り組み、各時代の雰囲気が重層的になっている別府だが、どこでも目にするのがネコである。そしてこのネコたち、人を見ても逃げない。ネコがまちに「棲み着いている」のかもしれない。

アートゲートクルーズ終了後、「永久別府劇場・恐怖の館」でのパフォーマンスMuDA Ritual Field VER.B「Darkness man」を見る。お化け屋敷のように建物の中の真っ暗な通路を歩くと、所々で黒塗りのパフォーマーたちが突然現れ、声と激しい動きで観客を驚かす。このパフォーマー、観客の間際まで近づくのだが、見事なまでの「寸止め」。決して観客の体に触れることはない。迫力満点である。なお、この建物は元ストリップ劇場。中央のステージがそれを物語る。そしてそこを所狭しと迫る黒塗りのパフォーマーたちの動きが圧巻だ。

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見終えて「永久別府劇場・恐怖の館」を出る。しばし、宿で今日見たものを振り返り、夜のまち散策。さすが湯の町。昼間は静かな歓楽街がとたんににぎわいだす。客引きも多い。昼間何気なく通った路地もこの時間になると歩くのは勇気がいる。

別府のうまい酒と食べ物の誘惑を振り切り、ビール1杯だけにして宿に戻った。

別府現代芸術フェスティバル2015「混浴温泉世界」のウェブサイトはこちら