誠信堂徒然日記

まちづくり、地域のこと、旅行記、教育や社会問題等徒然と。

北陸で出会う、工芸の可能性

小松市こまつ芸術劇場うららで開催された標記のフォーラムに参加。

 

北陸3県の工芸産地(富山、高岡、金沢、能美、小松、鯖江、越前)の工芸関係者やプロデューサー、デザイナー、建築家等が集まり、意見交換を行った。

 

会場内では九谷焼色絵加飾、越前和紙墨流し、高岡漆器螺鈿のワークショップ(体験)が行われている。

また北陸各地の工芸祭の紹介と、2017年に実施された工芸ハッカソンから生まれた工芸作品の展示もあった。

 

メインのシンポジウムは、第1部の基調講演、第2部のトークセッション「北陸の工芸祭の多様性と展望」、そして第3部のトークセッション「北陸で出会う、工芸の可能性」の3部構成。

 

以下、各セッションから興味を持った発言や、そこから考えたことについて述べていく。

 

第1部 基調講演 原研哉

応仁の乱後、貴族文化の「豪華絢爛」から銀閣寺東求堂同仁斎や龍安寺石庭のようなミニマム「何もないのが美しい」に。

・日本はこれからどういう誇りを持って生きていくべきか。「イノベーションとオーセンティシティ」。イノベーションは米国や中国に比べ旗色が悪いが、日本はオーセンティシティの宝庫。工芸の力を発揮する舞台が必要。

 

第2部 トークセッション

第2部のトークセッションは3県7市の工芸祭に取り組んでいるメンバーたちのトークセッション。

共通する内容として、来場者に工芸を見せる、体験してもらうことで興味を持ってもらい、これが購買に繋がったり、作り手たちの誇りに繋げようとしていることがある。

工芸祭は古いもので10年程度、新しいものは23回目と比較的歴史は浅いが、それぞれ実績を上げてきつつあるし、産地の元気、職人たちの新たな気づき、そして担い手たちの獲得に繋がれば良いと考えた。

 

第3部 トークセッション

林口砂里氏

高岡市で実施し、プロデューサーとして関わった「工芸ハッカソン」について

・アート×伝統産業×先端技術

・工芸の可能性を探るために新たな手法の模索として実施。ハッカソンから予想を超える化学反応が生まれないかと期待。

・142名の応募者から選考し、37名が参加。その職種も多彩であった。

・実施にあたり地域や産地のことを知るツアー(工房見学、町歩き等)、チームビルディング、ハッカソン&プレゼン準備、プレゼンテーションという内容。その成果として工芸と情報技術の融合といったアイデアやプロダクツが完成。

・実施してみて。テクノロジーと工芸は敵対するものではなく、融合できる。いかにうまく使うかが重要。

・現在「ものづくり×旅」北陸の強みを生かしたツーリズムと価値発信を行う、「一般社団法人富山県西部観光社 水と匠」を設立した。

 

山下保博氏

「しま・ひと・たから」がテーマ。

・現在、東京、奄美大島、福岡に拠点がある。

・ふるさとである奄美大島では、自身の造語である「伝泊」を展開。伝泊とは、「伝統的・伝説的な建築と集落と文化」を次の時代に伝えるための宿泊施設であり、旅人と地域の人との出会いの場も提供する場である。

・「観光客に合わせる」のではなく、「日常こそ宝物」という認識のもと、日常に観光客が”参加”することで、のちにリピーターとなって戻ってくる。

・現在もスーパーの空きスペースを活用し「伝泊と広場」を融合した施設を作った。

・小松の過疎地域でも伝泊を開くべく準備中。「水と森と人のネットワーク」にポテンシャルを感じたから。

 

原研哉

・工芸は道具。道具が文脈の中でどう語られるか。「伝泊」のように、文脈を持っていないと成立しない。

 

林口氏

・工芸の価値とは美。心を動かされ、感動を起こさせるものが工芸。

・自然にかなう美しいものはないと思っていたが、工芸は美をモノに込めて表現されたもの。自然よりも美しいと言える。

 

山下氏

・日常ほど美しいものはない。人と出会うことが美しいこと。「美は特別ではない」ということを把握して進めること。

 

考えたこと

・現在フィールドで入っている綾部市北近畿エリアでも、「工芸の再興」や「伝泊等観光の展開」の可能性があるように思えた。確かに北陸3県ほどの知名度を持った伝統産業は多くないが、和紙、織物等、地域の風土や産物を活かした豊かな工芸が存在する。また、過疎地域、空き家が多い中、地域の自然や伝統・伝説、生活文化にフォーカスした「伝泊」のような観光形態とはきっと親和性があるはず。

・伝統工芸に関心を持ち、研究に足を突っ込むようになって20年余り。その間、研究から少し遠ざかることもあったが、忘れてはいない。とりわけ、担い手が高齢化し、その継承において危機的状況に置かれている工芸が増えている中、日本全国の工芸の実態を把握し、その価値を再定義し、次世代につなげるために残された時間は少ない。北陸でのこうした動きも念頭に置きつつ、研究実践活動を続けていかないと、と思いを新たにした。

 

そのほかのリンク

https://kanazawa.keizai.biz/photoflash/2616/

 

北陸で出会う、工芸の可能性(2020/02/24|石川) | まち座|今日の建築・都市・まちづくり